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☆『札響3ちゃんねる"クラヲタへの道"』は”季刊ゴーシュ”で連載中です。☆

その5 めざせ! オーケストラ業界人

(2007春 季刊ゴーシュ第9号掲載)

 キタラの舞台裏には男性用の楽屋が下手側(客席から見て左)に2つ、上手側に2つ、合わせて4つある。誰がどの楽屋を使うかは指定されていないが、皆自分が行く楽屋を決めている。いや、それどころか楽屋の中のどの位置で着替えるかもだいたい決まっている。“定位置”というやつ だ 。
 
 私 が いつも着替えて 楽屋 の住人はだいたい15人ほどである。先月住人のひとりであるコントラバスの最若手R君が「オレ、今日からここの場所使っていいっすか?」と宣言した。そこは12月までヴァイオリンのIさんが使っていた場所で、そのIさんが定年退職を迎えたのだった。R君は 楽屋の入り口に近いほうから、 鏡付き、椅子付きのIさんの定位置を虎視眈々と狙っていた、というわけである。
 
 定位置は楽屋の中だけではない。舞台袖の自分の楽器を置く場所もだいたい決まっている。札響はそれほどではないが、定位置が厳格に決まっているオーケストラも珍しくない。だからフリー奏者で首都圏のオケなんかにエキストラ出演していた頃は場所取りには細心の注意を払った。危険人物の定位置にうっかり衣裳や楽器を広げたら一大事である。初めて行くオケは、朝早くホールに着いてもすぐには荷物を広げず様子を見るのが安全である。練習場所から戻ってみたら自分の楽器ケースと衣裳バックが通路に投げ出されていた、という笑えない話も聞く(ウソかホントかは知らないが)。
 
 オケ業界にはもうひとつ面白い癖がある。既にご存じの方も多いだろう。“音楽業界用語”というやつである。1万円をC(ツェー)マン と言ったりする。音階のドイツ語読みを数字に当てているのだ。 2,500円だったらD千G百である。
 
 あと、挨拶では「おはようございます」以外は使わない。昼でも夜でも職場での挨拶は「おはようございます」である。
ドラマ「のだめカンタービレ」でベートーヴェンの交響曲第7番を“ベト7”と呼んでいるのに気が付いた方も多いと思う。このように曲名を省略するのも実際に行われている。ドヴォルザークのチェロ協奏曲は“ドボコン”。ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」は“青ダニ”という。ダニはもちろん、ドナウの別名ダニューブである。
 
 午後、まだ眠そうな顔でホールに現われ「おはよございま~」と同僚たちに挨拶し、衣裳と楽器ケースを定位置に置いて、「今日って青ダニからだっけ?」と何気なく隣の奏者に話しかけられるようになるまでは…、そう、最低でも10年はかかりますな。

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