★このブログはARAKI(V.c.)'s Home Pageのなかの1コーナーです。★

☆『札響3ちゃんねる"クラヲタへの道"』は”季刊ゴーシュ”で連載中です。☆

その7 「野獣死すべし」が好きだ!

(2007秋 季刊ゴーシュ第11号掲載)


 1980年、中学3年生だった私を文字どおり釘づけにした映画が封切られた。「野獣死すべし」である。今思うと 80 年とは時代の転換点であった。YMOが一世を風靡し、機動戦士ガンダムが放送された。汗だくのパフォーマンスよりも無機質でクールなものがカッコよいとされたのはこの時からだ。“ネクラ”という当時の流行語はサブカル言語の走りであった。 80 年とはそんな時代であった。
 
 この映画の主役、松田優作演じる伊達邦彦もクールな男である。「野獣」の脚本家丸山昇一はパンフレットにこう書いている。「あるパーティーの席上、松田優作は私を呼んでこう言った。『丸山、伊達邦彦をつかまえたよ。ちょっと見てくれ』」。やがて丸山昇一の前に死人の様にひっそり歩く伊達邦彦が初めて出現したそうだ(松田優作のこの役への入れ込みは凄まじく、伊達邦彦を演じるために奥歯を抜いて頬を痩けさせたという話は有名だ)。伊達は通信社に勤める内向的でネクラなインテリだが、やがて 大胆かつ 計画的な銀行強盗と大量殺人を犯す。 私は 今までのハードボイルドのイメージとは全く違うこの映画に大きなショックを受けた。本当は絶対にやってはいけないのだが、映画館に録音機を持ち込んでセリフを全部覚えてしまった(当時はビデオも無いのでこういう手段しかなかったのだ)。

 そして何といってもこの映画を格調高く強烈に個性付けたのがクラシック音楽であった。恋人の華田令子(小林麻美)との出会いは日比谷公会堂での東京交響楽団の演奏会であり、演目はショパンのピアノ協奏曲第 1 楽章。再会は銀座ヤマハでBGMに同曲の第2楽章。伊達が警官から奪った拳銃を愛撫し恍惚とするシーンではショスタコーヴィチの「革命」が大音量で流れる。トランペットとヴィブラホンによるハードボイルドチックなテーマ曲 とこれら クラシック音楽の存在が、どのシーンでも効果的に使われ、映画に哲学的とも言える趣を与えている。伊達は両親を失った少年期から通信社で戦地を廻る現在まで多くの外傷体験によって厭世的な人格を持つにいたり、唯一深遠なクラシック音楽に浸る時だけ安らぎを覚える。…という設定なのだ。

 この映画はまだ始まったばかりの 80 年代という時代を強く意識して作られており、大薮春彦の同名の原作とは全く異なる内容になっている。原作が発表された昭和 33 年(1958年)とは全く時代が違うという理由からだ。この翌年から私はチェロを習いだした。「野獣」と出会わなかったら今の私はなかったと思う。
「野獣死すべし」が好きだ!! うおおおお!!

0 件のコメント: